頭にある脳が身体すべてを支配するという考え方に大転換腸神経系の発見:腸には、その他の末梢神経系すべてを合わせたよりも多くの神経細胞があり、神経伝達物質もそろっていることが分かりました。 これまでの、頭の脳を万能と考える医学の常識が覆されたのです。 胃が痛いのは、大脳がストレスを感じたからではなく、腸の神経症であるかも知れません。 マイケル・D・ガーション博士の学説 1980年代にアメリカのコロンビア大学医学部の解剖生物学教授マイケル・D・ガーション博士が「腸はセカンドブレイン(第2の脳)である」という学説を発表しました。 研究によれば、腸は脳や脊髄の指令なしでも反応を引き起こせる神経系を備えており、腸の神経細胞は他の消化器官と協調して働き、また他の臓器にも直接指令を出す独立したネットワークを形成していることが明らかになりました。 言い換えれば、腸は脳と同様に神経細胞同士で情報を伝達し、その神経細胞が脳に次いで2番目に多いことから、「腸はセカンドブレイン」と称されています。 さらに、腸の情報伝達に欠かせない神経伝達物質であり、幸福ホルモンとも呼ばれるセロトニンがあります。興味深いことに、体内の95%のセロトニンは腸内で生成されていることが確認されています。 腸のセロトニン(全体の95%) 腸内で生成されるセロトニンは、腸以外の消化管や臓器の運動を制御するなど、多くの重要な機能を果たしています。これにより、体内のセロトニンの95%が腸に集中していることが意味深いものとなります。 この腸内で作られるセロトニンは以下のような機能を担っています。
特に、腸内のセロトニンは、正常な蠕動運動に関与しています。これにより、腸内の便が肛門まで運ばれ、正常な排便が行われます。 したがって、腸内でセロトニンの生成が不足すると蠕動運動が低下し、便秘の原因となります。逆に、過剰なセロトニン生成は蠕動運動を過度に活発化させ、消化不良のまま便が排出され、下痢の原因となります。 さらに、ストレスや緊張によって引き起こされる「お腹が痛くなってトイレに行きたくなる」といった症状の過敏性腸症候群(IBS)は、腸内のセロトニンが過剰に生成されることが原因とされています。 脳のセロトニン(全体の5%) 脳内で生成されるセロトニンは、一般的には精神のバランスを維持し、興奮や衝動性を抑制する役割が広く知られています。 その他にも、セロトニンは睡眠ホルモンであるメラトニンの前駆体となっており、セロトニンが不足すると睡眠障害の原因となると言われています。 腸と脳は密接に関係している=腸脳相関 脳が緊張や不安、プレッシャーなどのストレスを感じると、自律神経を介して大腸に影響を与え、便秘や腹痛、下痢などの消化器症状を引き起こします。同様に、うつ病も大腸と自律神経の関与が大きいです。 逆に、腸に病原菌が感染した場合、不安感が増すという報告もあり、脳と腸が密接に関係していることが示唆されています。 腸内には神経伝達物質であるγアミノ酸(GABA)を産生する細菌が存在します。この種の細菌が不足している子どもは、行動異常や自閉症などになりやすく、その治療として腸内環境の改善が試みられています。 腸活の効果
最近では、「腸活」と呼ばれ、腸内環境を向上させるために食事に気を付けたり運動を取り入れたりすることに高い関心を寄せる方が増えています。 「腸活」の効果により、性格が穏やかになったり、顔つきが朗らかに変わったりするなど、劇的でポジティブな変化を経験されている方々が多く見受けられます。すばらしいことですし、喜ばしいことですね! あなたもぜひ、美しい腸内細菌叢を手に入れて、維持して参りましょう♪ 腸活や健康に関するご相談はこちらから
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腸内細菌は普段の食生活、医学的理由による抗生物質摂取、生活習慣などに影響される腸内細菌と精神神経疾患の関連性研究の目覚ましい進展により、身体疾患と精神神経疾患の 関連性について、腸管粘膜における炎症、免疫反応、細菌代謝物の吸収の側面から新たな展 開が始まった。 講演論文の内容を一部抜粋してご紹介します。 <抄録より> 腸内細菌は、多種にわたり大量に腸管内に存在する。腸管粘膜は、上皮細胞間のタイトジャンクションにより緊密に結合し、表面は粘液により被覆される。 加齢や心理社会環境ストレスは粘液産生低下および免疫機能低下により腸管バリア機能が低下し たリーキーガット(leaky gut)を誘発する。その結果、精神神経系、消化器系、代謝系、免疫系の多彩な腸内細菌関連疾患を誘発する。 その主要な機序は、炎症、細菌代謝物などの侵入もしくは吸収、免疫反応である。精神神経疾患の病態においては、精神疾患は主として炎症反応が脳血液関門を障害し、神経炎症を引き起こすこと、神経変性疾患では腸管で吸収された物質が求心性神経を経由して中枢神経系で凝集することがその主要な病態と推測される。 脳腸相関に関する基本的概念 近年の腸内細菌の研究によって、腸内細菌が新たな脳腸相関のプレイヤーとして注目を集め るようになった。 腸内細菌は普段の食生活、医学的理由による抗生物質摂取、生活習慣などに影響され、心理社会的ストレスにより修飾され、その結果として、これまでとは異なる疫学的特性をもったさまざまな病態が出現することになる。 そのモデルはすでに米国の疫学的研究によって明らかになっている。従来の考え方では、代謝異常は栄養摂取状況、心理社会負荷は社会ストレス増大の影響とそれぞれ外的要因の影響と考えられてきた。 しかし、さまざまな疫学調査から代謝異常、心理社会ストレスは経済的要因によって影響される栄養摂取状況、受療行動に影響されるものであり、その結果として腸内細菌構成に何らかの影響が及び、さらにその結果として肥満やうつ病などの病態が形成されるという仮説が提唱されるに至った。 腸内細菌叢と関連が深い疾患 腸内細菌と関連する疾患 さまざまな研究から、腸内細菌の変化が確認された疾患は多種多様である(上記Fig. 1参照)。大別すると、精神神経系疾患、消化器系疾患、代謝系疾患、そして自己免疫炎症が関係する疾患である。多くは心身医学領域にも関連する病態である。 腸内細菌が病態形成にどのようにかかわるのかについては、さまざまな研究が行われている。 その骨格は、 ①多種多様な腸内細菌叢のバランスを崩す「多様性の低下」 ②「病原性を有する細菌(群)の病的増加」 ③その結果としての「腸管粘膜の炎症」とその結果としての「腸管粘膜透過性亢進」 さらにその結果として④特定の腸内細菌が腸管内で産生代謝した「代謝物の粘膜内侵入/生体への吸収」 ⑤腸内細菌の生体内への侵入による「炎症反応/免疫反応」の全身への影響 などの経路を想定することが可能となる。 その観点で、腸内細菌が関連する病態を見直すと、 ①炎症もしくは炎症性サイトカインの関連する病態として a:神経炎症がかかわる精神疾患群 b:腸管粘膜炎症を主座とする炎症性腸疾患 c:腸管粘膜微細炎症を基盤とするとみられる機能性消化管障害などの炎症を基盤とするもの ②腸内細菌代謝物あるいは生理的状態では吸収されない腸管内容物の過剰吸収によるもの ③腸管免疫機能を介した免疫反応による免疫炎症系反応を中心とするもの とに大別することができる。 中でも、精神神経系の病態においては,精神疾患系は主として神経炎症が、神経変性疾患 は主として異常代謝物の神経内蓄積が影響している可能性が推定される。 出典:教育講演 腸内細菌と精神神経疾患からみる腸脳相関(本郷道夫 MD, PhD) 2021 年、第62 回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(高松) 本論文の全文をお読みになりたい方は、こちらからPDFをダウンロードいただけます↓
幼児期の子どもが5つの"食べる力"を育むことをめざし、基本的事項及び支援の方向性等を提示したはじめてのガイド「幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援に向けた効果的な展開のための研究」の成果物として、2022年(令和4年)3月に発行された「幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド【確定版】」の内容をご紹介します。 なお、このページの下段から、本ガイド(全文)をダウンロードすることができます。 ご活用ください。 はじめに 社会経済状況やライフスタイルが変化する中で、子育てを専ら家族に委ねるのでは、子育てそのものが大きな困難に直面することは多い。 「楽しく食べる子どもに~食からはじまる健やかガイド~」(平成16 年2 月)では、幼児期は、食への興味や関心がもてるように、食べる意欲を大切にして、食の体験を広げていく時期とされており、幼児期に育てたい“食べる力”として、次の5つが示されている。 ○ おなかがすくリズムがもてる ○ 食べたいもの、好きなものが増える ○ 家族や仲間と一緒に食べる楽しさを味わう ○ 栽培、収穫、調理を通して、食べ物に触れはじめる ○ 食べ物や身体のことを話題にする 幼児期の子ども1 人1 人がこれらの食べる力を育むためには、保健医療従事者や児童福祉関係者等が連携し、幼児の栄養・食生活について基本的事項を共有し、幼児や保護者への支援を効果的に進める必要がある。 一方、離乳(生後12~18 か月)後の幼児期の栄養・食生活について、科学的根拠に基づき、具体的な支援の方法を示したものはない。 そのため、幼児期における心身の発育・発達や基本的な生活習慣の形成などの特徴を踏まえ、適切な栄養摂取や食生活の支援について明示し、保護者への支援の充実を図る必要がある。 さらに令和元年に成育基本法が施行され、令和3 年2 月には成育医療等基本方針が閣議決定された。乳幼児期を含む子どもの健やかな成長等のために保育所、幼稚園等と家庭や地域等が連携した食育を推進することが明記された。 以上を踏まえ、本ガイドでは、幼児期の子どもが5つの"食べる力"を育むことをめざし、保健医療従事者や児童福祉関係者等が、幼児期の栄養・食生活支援を効果的に展開していく上で共有すべき基本的事項及び支援の方向性等を提示することをねらいとする。 具体的には、以下の内容を示している。 1) 幼児期の栄養・食生活等をめぐる状況(平成27 年度乳幼児栄養調査結果より) 2) 幼児期の栄養・食生活の課題及び把握すべき基本的事項 3) 幼児・保護者の栄養・食生活の課題改善のための支援の考え方と方向性 4) 幼児期の栄養・食生活支援の取り組み(好事例)の紹介 <本ガイド13ページの内容の一部抜粋> 4.幼児・保護者の栄養・食生活の課題改善のための支援の考え方と方向性 8割の保護者は、子どもの食事についての心配事を抱えているため、まず、そ心配事を尋ねて、保護者の声に耳を傾け、保護者の困り感に共感する。食事・食生活の支援の内容は、画一的ではなく、個々に合わせた支援を行う(図21)。 子どもの栄養・食生活の課題を改善するためにどのような支援が必要になるのか。 図22 に、子ども、保護者の課題に対応する支援者の活動の方向性(1)~(5)を示した。平成27年度乳幼児栄養調査結果から把握された課題については、文章中に下線を付してある。 また、巻末の資料1「乳幼児期における口腔機能の発達に対応した食の進め方」ならびに資料2「幼児期の子ども・保護者の栄養・食生活支援に関するQ&A」も参照されたい。 本ガイドの内容の一部を音声でお聞きになりたい方は、こちらから↓ 本ガイド(全文)を資料としてダウンロードしたい方は、こちらから↓
妊娠前からの栄養教育の必要性 妊娠時から産褥期における栄養管理の目的は、妊婦の健康と胎児の発育を守ることである。不足と過多の両方に注意が必要な栄養素もあり、妊娠前からの栄養教育が必要である。 <抄録> 妊娠時から産褥期における栄養管理の目的は、妊婦の健康と胎児の発育を守ることである。 通常、「日本人の食事摂取基準」を満たすような食生活が理想と言える。しかし、平成29年(2017年)の「国民健康・栄養調査」結果では、20歳代女性のやせ(BMI、18.5未満)の割合は21.7%と多く、カルシウム、マグネシウム、鉄は推定平均必要量を下回っている。 非妊娠時のやせや妊娠時の体重増加不良は、低出生体重児のリスクが高いことが知られている。また、胎児の発育に影響を及ぼす葉酸、ビタミンA、Dのように不足と過多の両方に配慮が必要な栄養素もあり、妊娠前からの栄養教育が必要である。妊娠を機に起こりうる病態や代謝異常には、妊娠悪阻、糖代謝異常、妊娠高血圧症候群などがあり、これらの患者には特別な栄養管理が必要となる。 今回、これらの妊婦の栄養サポートに関わるスタッフが知っておきたい栄養管理について概説する。 妊婦の食事摂取基準(日本人の食事摂取基準2015年版より) 体格区分別 推奨体重増加量(妊娠全期間)と1週間あたりの推奨体重増加量(妊娠中期~末期) 出典: 日本静脈経腸栄養学会雑誌(2019年 34巻 1号 p.3-6) <用語説明> *産褥(さんじょく)は、出産後の女性や産後の期間を指す日本の医学用語です。 具体的には、出産後の約6週間から8週間の期間を指し、この期間は母体が出産による身体的な変化や回復を遂げる時期と考えられています。 本特集記事の抄録を音声でお聞きになりたい方は、こちらから↓ 本特集記事の全文をお読みになりたい方は、こちらからダウンロードいただけます↓
第1章 妊娠中の貧血に関する検討近年の日本における周産期医療の問題点として、出生体重の減少と早産率の増加が挙げられています。 厚生労働省の統計によれば、出生体重が減少し、低出生体重児の割合が増加しています。同時に早産率も上昇しており、これらの要因が将来的に生活習慣病のリスクを増加させる可能性があります。 妊娠可能年齢の女性の痩せた状態が一因として考えられており、適切な栄養摂取が重要です。 研究は妊娠中から産後の栄養状態が児(赤ちゃんや子ども)の成長や母親の健康に及ぼす影響を解明し、産後うつの早期発見と治療にも貢献することを目指しています。 以下、第1章の内容の部分的な抜粋です。 第1 章では妊娠中の貧血に関して検討した。 日本では、妊娠中の貧血や鉄動態に対して基準値となるものがなく、日本産婦人科診療ガイドラインにも妊婦の貧血治療に関する記載は存在しない。 貧血は悪化すると胎児発育不全や早産の原因となることが報告されており、妊娠中の鉄動態を知り、適切な貧血治療をどの様にするべきかについて知りたいと考え検討を行った。 5. 第1 章 妊娠中の貧血に関する検討 5-1. 緒言 近年の日本における周産期医療の問題点として、出生体重の減少と早産率の増加があげられる。妊娠中の栄養状態が不良になると、児の成長や周産期予後に悪影響があると考えられており、妊娠中に適切な栄養を取る事は重要である(Sharma J A, etal., 2016)。母体の栄養状態として鉄に注目すると、出生体重の減少の原因の一つとして妊娠中の母体貧血の関連が報告されており、また貧血により早産傾向になる事も報告されている(Rahmati S, et al., 2020)。その他にも、産後出血(Owiredu W, etal., 2016)、常位胎盤早期剥離(Arnold D, et al., 2009)、心不全の発症やそれに伴う死亡率が上昇する(Reveiz L, et al., 2011)可能性があるなど、妊娠中の貧血は妊娠、分娩期の様々な異常と関連することが指摘されており、貧血に対して適切な治療が行われる事が望ましい。 栄養状態の悪い発展途上国のみならず、欧米諸国においても妊娠中のほぼすべての妊婦が鉄欠乏状態にあると言われているが(Nair M, etal., 2016)、日本人において妊娠中の鉄動態を調べた過去の報告はなく、妊婦の貧血についての明確な診断基準もない。WHO では全妊娠期間を通してヘモグロビン11g.0g/dL を貧血の定義としているが実臨床ではこれを参考にしているとは言えず、日本産科婦人科学会においても妊娠中の貧血治療に関するガイドラインが存在しないので、担当医の裁量により治療が異なるのが現状である。体内の鉄動態を把握する指標として、血清鉄、フェリチン、Total iron binding capacity(TIBC)などが使用される。血清鉄は、骨髄で発生中の赤芽球のヘモグロビンへの取り込みに利用できる輸送タンパク質であるトランスフェリンに結合した鉄を表し、フェリチンは正常な状態で体内に蓄えられた鉄を反映するタンパク質である(Larsson A, et al., 2008)。 これらの鉄代謝に関する指標を参考に、日本人における妊娠中の貧血、鉄動態の推移がどの様に変化するかを調べ、貧血の治療介入をする際の目安を作成する事を目的として研究を計画した。 5-5. 考察 今回の研究では健康な日本人女性の20%が妊娠後期に貧血を発症し、成人女性の正常値と比較すると妊娠中期以降に妊婦のほとんどが鉄欠乏である事が判明した。さらに妊娠初期のヘモグロビン値は、フェリチン、血清鉄、TIBC、TAST など鉄貯蔵状態と直接的に関連る指標よりも、妊娠後期に発生する貧血の予測因子として優れていることを示した。 妊婦の貧血は、血液希釈による生理的な変化であり、それは分娩時の出血の際に鉄喪失量を減らし、また血栓症の発症率を減らすことに寄与していると考えられている。しかし、妊娠中の貧血は、75%は鉄欠乏性貧血で(Sifakis S, et al., 2000)、分娩時出血増加、早産、低出生体重、敗血症、母体死亡、周産期死亡のリスク上昇など、母児の双方にとって複数の有害な結果と関連しているとする報告もある(Owiredu W, et al., 2016; ArnoldD, et al., 2009; Reveiz L, et al., 2011)。妊娠28 週における貧血と分娩時の出血量には強い関連があるともされ(Kavle A, et al., 2008)、一般には妊娠中の貧血の予防が推奨されている。 今回の検討では妊娠後期のヘモグロビン値により貧血群と非貧血群に分けて分娩週数や出生体重などの周産期予後を比較検討したが、ここには有意差は見られなかった。これは、今回の検討では正常な妊婦の鉄動態がどの様に変化するのを見る事を目的としており、36週未満の早産で出産した妊婦や、妊娠初期からヘモグロビン11.0g/dL 未満の妊婦を除外した影響と思われる。WHO は、公衆衛生上の問題として妊娠中の鉄欠乏と貧血の重要性を強調している(WHO, 2001) 。 今回の研究では、FIGO が推奨する出産時のヘモグロビンが10.0 g/dL 未満(FIGO, 2019) を妊娠後期の貧血の定義として使用したが、もしWHO が推奨する妊娠中のヘモグロビン11.0 g/dL 未満を貧血とみなすと、妊娠後期の健康な日本人女性の半数以上が貧血になる事や、221 人(96%)はフェリチン 30ng/mL 未満であった事を考えると、鉄分を多く含む食事の積極的な摂取や鉄剤内服を妊娠早期から勧める事が臨床的に重要であると考えられた。スウェーデンの妊婦における研究では、血清鉄は26~348μg/dL が正常範囲とされており、フェリチンは3~129ng/mL が正常範囲とされている(Larsson A, et al., 2008)。今回の研究では、妊娠中期の血清鉄の中央値と範囲は、71(9-239)μg/dL、フェリチンは6.7(1.2-128)ng/mL であり、日本の妊婦は鉄欠乏状態である可能性がある。他に鉄欠乏状態を評価するものとして、血清鉄とTIBC を用いてTSAT(血清鉄/TIBC×100)を算出した。TSAT が20%未満であることは、ヘモグロビン合成と赤血球産生のための鉄の供給が不十分である事を示している(Auerbach M, et al.,2016)。今回の研究では、妊娠中期の時点でTSAT の中央値は15%であり、多くの妊婦が鉄欠乏状態であったと考えられる。 妊娠中の鉄必要量は、妊娠初期の0.8mg/日から妊娠後期の7.5mg/日へと増加し、平均4.4mg/日となる(Zhang S, et al., 2009)。妊娠中期の時点で、健康な妊婦の90%以上でフェリチン値が30ng/mL 未満である事と、妊娠後期に必要量が増す事から、早期の鉄分補給が重要である事が示唆される。 また臨床現場ではフェリチンや血清鉄、TIBC などの鉄動態に関する指標が鉄補給の必要性を判断する基準として使用される事があるが、これらの採血を実施するにはcomplete blood count (CBC)に比べて費用がかさみ、結果が出るまで時間がかかるなど不利な点が見られる。 今回の検討では、すでに日本では妊娠中の検査項目として組み込まれており、費用を抑え、また迅速に結果が得られるヘモグロビン値によって妊娠後期の貧血を予測できる事を示唆しており、臨床において重要な指標となり得る。 さらにヘモグロビンの次に優れている指標としてはヘマトクリットとなっており、これもCBC で結果が得られる事から、有用な結果であると思われる。 ROC曲線から、ヘモグロビン12.6g/dLをカットオフ値とすると、感度83%で貧血を予測出来る結果が得られた。妊娠初期にヘモグロビンが12.6g/dL 未満であった妊婦115 人のうち39 人(34%)が妊娠後期に貧血を発症したのに対し、妊娠初期にヘモグロビンが12.6g/dl 以上であった116人のうち8人(6.9%)が妊娠後期に貧血を発症した。この結果は貧血のない妊婦であっても、妊娠初期にヘモグロビンが低ければ鉄補給を早期に開始する理論的根拠となり、貧血の頻度の減少に寄与する可能性がある。実際の臨床現場ではヘモグロビン12.6g/dLの妊婦に対して鉄剤を処方する事に抵抗を感じる医師が多いと思われるが、早期の経口鉄剤は鉄の貯蔵を改善し、貧血の発症を減少させることが示されており(Reveiz L. et al., 2011)、さらに妊娠中期で90%以上の人が鉄欠乏状態になっている事を考慮して鉄に関する栄養指導を行う必要があると思われる。 今回の研究では、北海道内の3 都市の患者を対象としており、北海道内の正常妊婦における鉄動態はほぼ判明したと思われるが、日本全国においてはどの様に推移しているかは不明であり、今後の検討課題と思われる。また36週未満の早産で生まれた症例や合併症妊婦、双胎などが除外されているので、今後の検討ではそれらの妊婦も含めた検討も必要である。 さらに、鉄分の補給をした場合に周産期予後がどの様に変化するかは不明なままであり、鉄剤投与の母体および新生児への影響を評価する臨床研究が必要と思われる。 出典: 妊娠中から産後の栄養状態が胎児と妊婦転帰に及ぼす影響の検討 北海道大学、博士(医学)、能代究氏、2023年3月23日 用語説明 *転帰(てんき)とは、疾患・怪我などの治療における症状の経過や結果のこと。 本内容を音声でお聞きになりたい方は、こちらから↓ 本学位論文の全文をお読みになりたい方は、こちらからダウンロードいただけます↓
母親の新生児への反応と自信に影響を与える要因新生児に対する母親の反応と子どもの世話への自信は、アタッチメントセキュリティ、親ストレス、自己効力感に依存する。アタッチメント回避と自信に正の関連があり、育児ストレスが仲介する。アタッチメント不安は自信に影響せず、自己効力感は仲介しない。 <要約> 母親の新生児に対する反応と子どもの世話への自信(自分の能力や判断に対する信頼感)は、母親のアタッチメントセキュリティ*、一般的な親ストレス、および自己効力感に依存します。 しかし、母親の特性に影響を受ける母親の子どもの世話への自信を分析した研究はほとんどありません。 私たちは、母親の成人のアタッチメントと子どもの世話への自信との関連性を調査し、この関係が育児ストレスと母親の自己効力感によって仲介されるかどうかを理解することを目指しました。 サンプルは、新生児の子どもを持つ平均年齢33歳の96人の母親から成りました。使用された測定ツールは、Experiences in Close Relationships-Revised(ECR-R)、Mother and Baby Scale(MABS)、Parenting Stress Index Short Form(PSI-SF)、およびMaternal Self-Efficacy Questionnaire(MEQ)でした。 結果は、アタッチメント回避と子どもの世話への自信の間に正の関連があり、この関連は育児ストレスによって仲介されていることを示しました。 一方、アタッチメント不安は子どもの世話への自信に影響を与えないようであり、母親の自己効力感はアタッチメントと乳幼児の世話に対する自信の関係を仲介するようではないようでした。 私たちの結果は、乳児の出生後の最初の月から早期にリスク状況を認識するための医療従事者の支援を可能にし、子どもの世話への自信の研究に新たな研究を導くことができます。 Source: International Journal of Environmental Research and Public Health (2022) <用語解説> *アタッチメントセキュリティは、心理学および発達心理学の文脈で使われる用語で、個人の感情的な結びつきや依存の安全性を指します。具体的には、幼少期に親や主要なケアギバーとの関係が、個人の安全感や信頼感を築くかどうかに関連します。安全なアタッチメントは、幼児や子供がストレスや不安を感じたときに、親やケアギバーに支えを求め、信頼して近づくことができる状態を指します。逆に、不安定なアタッチメントや不安なアタッチメントは、個人が安全な感情的なつながりを築くのが難しい状態を示します。 この概念は、人間関係や心の健康に対する影響を理解し、心理療法や子育ての文脈で広く研究されています。安全なアタッチメントは、幼児期から成人期にかけての健康的な人間関係の形成に寄与するとされています。 本調査結果の要約を音声でお聞きになりたい方は、こちらから↓ 本調査結果の全文(英語原文)をお読みになりた方は、こちらからPDFをダウンロードいただけます↓
特定の条件下で、ケトダイエットが筋肉の成長をサポートし、回復を向上させる可能性があることを示唆本レビューは、ケトジェニック(ケト)ダイエットが筋肉の成長、回復、およびパフォーマンスにどのように影響するかに焦点を当てており、ケトーシスによる脂肪酸酸化、炎症、ホルモンバランスの変化が筋肉の増強にどのように寄与するかを検討しています。 <要約> ケトジェニック(ケト)ダイエットは、高脂肪、適度なタンパク質、低炭水化物の摂取を特徴とすることで、その潜在的な健康上の利点と体重減少効果から人気を集めています。 ただし、筋肉の増強に対するその影響は、依然として関心の対象であり議論の的です。このレビューは、ケトダイエットが筋肉の成長、回復、およびパフォーマンスにおける役割についての現在の文献を調査することを目的としています。 我々はケトーシスによる脂肪酸酸化、炎症、ホルモンバランスの変化が筋肉の増強にどのように寄与するかについて議論します。 証拠からは、特定の条件下で、ケトダイエットがアスリートやフィットネス愛好者における筋肉の成長をサポートし、回復を向上させる可能性があることが示唆されています。 Source: Special journal of the Medical Academy and other Life Sciences. Vol. 1 No. 3 (2023) 03/18/2023 要約を音声でお聞きになりたい方は、こちらから↓ 本レビュー記事の原文(全文)をお読みになりたいかたは、こちらからダウンロードいただけます↓
子どもの発達に影響を与える重要な要因の1つは「栄養」母親の食事や健康が損なわれると、子どもの健康に悪影響を及ぼす <要約> 母親の栄養は、子どもの生命の最初の1000日間、すなわち、受胎から子どもの2歳の誕生日までの間に対処される必要があります。 新生児は生後最初の6か月間は母乳だけが必要です。母親の飢餓状態は、母乳の生産とその栄養価にほとんど影響を与えないと言えます。母親の食事や健康が損なわれると、子どもの健康に悪影響を及ぼします。 本レビューは、妊娠中の女性の栄養の重要性に焦点を当て、この発達の重要な期間中に子どもの成長と発達にどのように影響を与えるかを説明することを目的としており、最新の文献で支持されています。 子どもは母親の胎内での成長から出産後の成長まで、次の4つの異なる段階を経験します:(1)9か月~0ヶ月:妊娠、(2)0~6か月:母乳育児、(3)6~12か月:固形食品の導入、および(4)12か月以上:家庭の食事への移行。各段階で提供される子どもの発育のための栄養価を評価します。 さらに、栄養、健康、学習の間には強い関連があります。乳児、子ども、思春期の栄養摂取は体重を維持し、正常な成長と発達を続けるのに十分です。 子どもの発達に影響を与える重要な要因の1つは栄養です。乳幼児期には急速な成長が起こります。他の成長段階と比較して、この段階は体の大きさに対する相対的なエネルギーと食事の必要量が最も大きくなります。 Source: Importance of Maternal Nutrition in the First 1,000 Days of Life and Its Effects on Child Development: A Narrative Review (Published 10/08/2022) 本レビューの要約を音声でお聞きになりたい場合には、こちらから↓ 本レビューの全文を英語の原文でお読みになりたい方は、こちらからダウンロードいただけます↓
母親のストレス要因が胎児の成長と発達に及ぼす影響発達プログラミングは、ストレス要因が遺伝子に長期的な変化をもたらし、疾患リスクを増加させる概念。母親のストレス要因や栄養状態も影響する。 <要約> 発達プログラミングとは、発達段階(妊娠、周産期、乳幼児期など)における「ストレス要因」が、遺伝子発現に長期的な変化をもたらし、臓器の構造と機能の変化を引き起こす概念です。 このような長期的な変化は、異常な成長や体組成、行動や認知の異常、代謝異常、心血管、消化器、免疫、筋骨格、生殖の異常を含む、慢性の病態や非伝染性疾患のリスク増加と関連しています。妊娠前期、妊娠中、出産後の母親の栄養状態は、発達プログラムに深い影響を与える可能性があります。 動物モデル、特に家畜種は、発達プログラミングのメカニズムと結果を定義するために重要でした。 重要な観察の一つは、妊娠初期や受精卵周りの時期*における母親の栄養状態や他の母親のストレス要因(環境温度、高地(地域)、母親の年齢や品種、多胎妊娠など)が、胎児の発育や発達だけでなく、胎盤の発達にも影響を与えることです。実際、変化した胎盤の機能が、多くの母親のストレス要因が胎児の成長と発達に及ぼす影響の基盤となる可能性があります。 将来の展望は、発達プログラミングの結果が子どもの生涯、および、次世代に及ぼす影響に焦点を当てるべきであり、他の重要な将来の展望には、戦略的な栄養補給などの介入の評価、および発達プログラミングの肯定的で適応的な側面をどのように活用できるかの確認が含まれます。 Source: Reproduction, Fertility and Development 35(2) 19-26 https://doi.org/10.1071/RD22234 Published online: 1 November 2022 * 受精卵周りの時期とは 妊娠が始まる前後の時間帯や、受精が起こる前後の時期を指す医学的な用語として使用されます。この期間は胎児の発達に影響を与える可能性があり、母親の栄養状態や生活習慣などが特に重要です。 本レビューの要約の内容を、音声でお聞きになりたい方は、こちらから↓ 本レビュー記事の全文をお読みになりたい方は、以下よりダウンロードいただけます。 英文原本
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妊婦の健康的な食事は、「量を増やすのではなく、質とバランスを良くするべき」アメリカ産婦人科学雑誌に、2022年5月に掲載された専門家によるレビュー記事をご紹介します。 <要約> 米国のほとんどの女性は、妊娠前および妊娠中の健康的な栄養と体重の推奨事項を満たしていません。 女性と医療提供者は、妊婦の健康的な食事がどのように見えるべきかについてよく尋ねます。 メッセージは、「食事を増やすのではなく、良くする」とすべきです。 これは、高品質の栄養価の高い食品、つまり果物、野菜、豆類、全粒穀物、健康的な脂肪(ナッツや種子を含むオメガ3脂肪酸が豊富なもの)、魚を含む、過度に加工された低品質な加工食品の代わりに、多様な食品に基づいた食事によって実現できます。 このような食事は栄養密度を具現化し、加工食品、脂肪の多い赤身肉、甘い食品や飲料を多く摂る標準的なアメリカ食よりも過度なエネルギー摂取にはつながりにくいです。 妊娠前および/または妊娠中に「慎重」または「健康意識の高い」食事パターンを報告する女性は、妊娠合併症と不良な子供の健康結果が少ない可能性があります。 栄養不足の女性に対する包括的な栄養補給(多数のミクロ栄養素とバランスの取れたタンパク質エネルギー)は、低出生体重の率を減少させるなど、改善された出生結果に関連しています。 あらゆるマクロ栄養素クラス*を厳格に制限する食事、特に炭水化物を欠いたケトジェニックダイエット、乳製品制限のためのパレオダイエット、および過剰な飽和脂肪を特徴とする食事はさけるべきです。 迅速な食事パターンの評価をサポートし、栄養不足をどのように対処するかについての明確なガイダンスを提供し、訓練を受けた医療提供者からのサポートが組み込まれたユーザーフレンドリーなツールが緊急に必要です。 最近のエビデンス(調査に基づく証拠)によれば、正常体重の女性では過度の妊娠中の体重増加が不良な周産期の結果を予測しますが、肥満の女性では妊娠中の体重増加よりも妊娠前の肥満度が不良な周産期の結果を予測する度合いが高いことが示されています。さらに、低体重指数と不適切な妊娠中の体重増加は不良な周産期の結果と関連しています。 観察データは、妊娠初期の体重増加が不良な結果の最も強力な予測因子であることを示しています。 母親とその子どもの将来の合併症を予防するために、妊娠初期または妊娠前からの介入が必要です。 新生児にとって、母乳は個別の栄養を提供し、乳児と母親の短期および長期の健康に関連しています。健康的な食事は授乳中の母親が自身と赤ちゃんの最適な健康をサポートする方法です。 Source: American Journal of Obstetrics and Gynecology Volume 226, Issue 5, May 2022, Pages 607-632 * マクロ栄養素クラスは、食物中の栄養素を大きく分類する方法の一つです。マクロ栄養素は、食事中で必要な量が比較的多い栄養素であり、通常はエネルギー供給の主要な源として機能します。主要なマクロ栄養素クラスには以下の3つが含まれます: 炭水化物(Carbohydrates): 炭水化物は主にエネルギー源として機能し、穀物、果物、野菜などの食品に豊富に含まれます。単糖類(糖分)、二糖類(糖分の組み合わせ)、多糖類(でんぷんや食物繊維)などが含まれます。 タンパク質(Proteins): タンパク質は身体の細胞の構造的な要素であり、成長、修復、免疫機能などに関与します。肉、魚、乳製品、大豆などが豊富なタンパク質源です。 脂質(Fats): 脂質はエネルギー源としても機能し、さまざまな生体機能に必要です。油、バター、ナッツ、種子、肉の脂身などが脂質の主要な源です。脂質はさらに飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸などに分類されます。 これらのマクロ栄養素は、バランスの取れた食事を構築するために適切な割合で摂取することが重要です。健康的な食事は、これらのマクロ栄養素のバランスを考慮し、個々の栄養ニーズに合わせて調整されるべきです。 本記事を動画(音声)で視聴されたい方は、下記よりアクセスいただけます↓ 本レビュー記事の全文をお読みになりたい方は、以下よりダウンロードいただけます↓ 英語原文
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著者Natsuki アーカイブ
1月 2024
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